新型コロナウィルス感染拡大の影響に伴い、テレワークの需要が高まっています。2021年1月、11都府県に緊急事態宣言が発出されました(1月20日時点)が、東京をはじめとし、これが2度目となる地域も多いです。
前回の緊急事態宣言下では、急遽テレワークやサテライトオフィスなどを導入することになり、対策に追われる企業も少なくなかったかもしれません。ですが、2019年より働き方改革関連法も順次施行されている現在、いっそそういった働き方を一時的な対策としてではなく、今後も継続的に活用できるものとして取り組んだ方がいいのではないでしょうか。
テレワークとは
日本テレワーク協会によると、テレワークは「ICT(情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」と定義づけられています。なお、「リモートワーク」という言葉もよく聞きますが、「tele=離れたところ」であるのに対し、「remote=遠隔」と考えると、ほぼテレワークと同義であると捉えて問題ないでしょう。
日本でテレワークが広まり始めたのは1990年代前半。バブルによって都心の地価が高騰し、郊外に住居を移す人が増えたのがきっかけだといわれています。その後、2000年代に入ると、今度は減少傾向にある労働人口を確保するために再度注目されるようになりました。IT環境整備も進み、以前よりも導入しやすくなったという背景もあるでしょう。そして2020年には新型コロナウィルス感染拡大の影響から本格的に広く普及され始めました。
テレワークにおける労務管理上の注意点
総務省の発表によると、テレワークを導入すると労働生産性が1.6倍も上昇するそうです。通勤にかかる時間や労力を省き、リラックスできる環境で自分に合った働き方を実践できるため、結果的に業務の効率化につながるのでしょう。
とはいえ、テレワーク時は従業員の働く姿が見えないということを不安に感じる経営者、上長も少なくありません。上司の目がないためサボるのではないか、という心配もあるかもしれませんが、それに加えて、コミュニケーションをとるのがどうしても同じオフィスにいるときよりも難しくなるため体調やモチベーションの変化に気づきにくいという点も課題です。
また、テレワーク時も当然ながらオフィスでの勤務時と同様に労働基準関連法令が適用されますが、労災認定の判断が難しくなるため、厚生労働省が提示しているガイドラインを参考にしたり、専門家に相談したりして、常に臨機応変に対応していくことが求められます。
それでは、次の項からは今挙げた「勤怠管理」「コミュニケーション」「労災認定」といった3点の課題について解説します。
勤怠管理
明確に成果が可視化できるような定量的な業務であれば、テレワークに移行後も滞りなく働くことは難しくないと思いますが、ほとんどの業務が定性的な面を持つといえます。実際に働いている姿も見えないため、どのくらいの時間をその業務に充てたのかも不明瞭で、会社で定められている始業時間を過ぎても就業していない可能性も、また、就業時間が過ぎても業務にとりかかっている可能性もあるでしょう。
ただし、これを問題視するばかりに、テレワークの導入を懸念するのはもったいないです。先述のとおり、テレワークの方が労働生産性が上がるというデータがあるだけでなく、たとえば遠方に移住する予定だったり、出産・育児を控えていたり、家族の介護をしなくてはいけなくなったり、今後長期休暇の取得、あるいは退職を検討する可能性のある優秀な従業員を見送らずにすむかもしれないからです。また、今後出社できない環境下にいる方を採用する受け皿を広げることにもなります。
まずは、従業員がいつ始業・休憩・終業したのかきちんと把握することのできるツールを取り入れましょう。労働時間が把握できないと成果物で判断するしかなくなってしまいますが、そうなると前述のように、ひとりひとりの定性的な業務もすべて上長が管理して評価する必要があり、個人のマネジメント、判断領域に全従業員の労働力を判断することを一任するのはあまりにも難しく、管理者による印象などに左右される可能性が生じるためです。
なお、勤務中に銀行や役所での手続きなど特定の時間帯にしか行えない用事が発生して「休憩時間を早めたい」、「休憩時間を延長して、その分終業時間を繰り下げたい」といった要望が生まれることもあるでしょう。中抜けに関しては厚生労働省の提示するガイドラインにも労働時間の変更例が掲載されており(就業規則への記載が必要)、オフィス勤務時にも適用されているかと思いますが、テレワーク時においては特に柔軟な対応が求められる可能性があります。
どのようなケースにも臨機応変に対応できるよう、始業・休憩・終業時間や業務の進捗状況の確認ができ、給与システムと連携も可能なツールのいち早い導入検討が必要かもしれません。
コミュニケーション
従業員が同一のオフィスで勤務していないとなると、当然ながら物理的な距離が生じ、コミュニケーションをとる上で、それまで以上に配慮が必要になります。対面で会話をすることができなくなるため、業務の指示や相談、打ち合わせなど、思い立ったときに呼び掛けるということができません。
テレワークの普及に伴ってビデオチャットツールも急速に広まりましたが、とはいえ顔の見えない状況では、話したいときにURLを送ってもすぐに対応してもらうのが難しいときもあるでしょう。そうなると、オフィス以外の環境でも今までと同様にちゃんと働いているのか、指示した意図がきちんと伝わっているのか不安になる管理者もいるかもしれません。
しかし、そこで過剰に干渉してしまっては、従業員のストレスや負担になりかねないので避けた方がベターです。従業員も管理者も双方が柔軟にテレワークという環境に慣れる必要があります。
毎日の予定表や日報をスプレッドシートなどで作成し、常時双方が共有できるようにしておく、こまめに報告、相談できる環境を整えるためにチャットツールを有効活用するなど、オンライン上のやりとりで充分なコミュニケーションができるように整備しましょう。
ビデオチャットツールも進歩し、Remo(リモ)やSpatialChat(未訳。ただし日本では「スペチャ」という略称で広まっています)、Ovice(オヴィス)などバーチャルオフィスを作ってだれがどこで働いているのか視覚化できるサービスも増えてきたので、そういったものを積極的に取り入れることで、スムーズに交流が図れることもあるはずです。
今後もテレワークをはじめ、あらゆる働き方に合ったツール開発が進行していくと考えられるので、自社に適したものを見つけられるよう、柔軟な思想で新旧問わずさまざまなサービスを取り入れていきましょう。
労災認定
労災には、仕事中に怪我をした場合の「業務災害」と、通勤途上で怪我をした場合の「通勤災害」の2つがあります。このうち、業務災害は企業に責任が求められますが、通勤災害は企業が責任を負う必要はありません。
オフィス勤務、サテライトオフィス勤務などの方が、通勤中に事故などに遭って怪我をしてしまった場合は通勤災害に該当し、同じ方が取引先などに出向いている途中に事故などに遭って怪我をしてしまった場合は、業務災害と見なされます(寄り道などをしなかった場合)。
つまり、テレワークで自宅から移動することなく就業する方に通勤災害が発生することはないでしょう。ただし、労働時間内に怪我をした場合は労働基準法が適用されるため、たとえば長時間労働することによって生じた疾病など、上記同様に業務災害として認められる可能性が高いです。
とはいえ、就業時間内に筋トレをしていて筋を傷めてしまった、ゲームプレイ中に感電してしまった、というような業務に関係ない私的行為中に怪我を負った場合は当然ながら労災とは認められません。こういったケースはオフィス勤務時にも起こりえますが、テレワークだと姿が見えない分、どういった状況で怪我を負ったのか、より判断が難しくなります。
前述の「コミュニケーション」とも関連しますが、発熱しているときなどは自分では大丈夫だと思っていても注意力が散漫になり、怪我などのリスクも高まるので、始業前や終業後に体調を共有して具合が悪そうであれば早めに休ませたり、執務に不向きな体勢で労働しているようであれば、腰痛などを引き起こしてしまわないよう、事前に部屋の明るさや勤務中の姿勢など労働衛生管理に関するアドバイスをしたりするとよいでしょう。
テレワーク導入にあたって
今までオフィスワーク以外の働き方を導入した経験のない企業や、前回の緊急事態宣言下で一時的に在宅勤務を取り入れたという企業においては、なかなか本格的なテレワーク導入に踏み出すことに抵抗があるかもしれません。しかし、この記事を通して触れてきたとおり、テレワークは労働生産性を上昇させる可能性があったり、労働人口確保の手段として有効だったり、さまざまな面においてメリットがあります。
テレワークでは働く姿が見えないため、ちゃんと業務にとりかかっているか不安だという場合も、きちんとコミュニケーションをとれる環境を整備することで対策は講じられるでしょう。また、大事なのは就業時間の確保ではなく、成果の確保だと考えた方がいいかもしれません。
前項でも少し触れましたが、「成果」とはなにも、定量的な成果物に限りません。たとえばモチベーションが下がっていたり、不安を抱えていたりする従業員にいち早く気づき、自らチャットツールなどで連絡をとることで士気を高めることができたら、それも成果のひとつです。オフィス勤務時にも、こなした業務量は少なくとも、ほかの従業員へのサポートやケアに優れているといった従業員がいるはずです。
そういった、ひとりひとりの成果をきちんとキャッチアップすることができるよう、テレワーク導入時、あるいは導入後も、物理的な距離をものともしない、密にやりとりできる関係性を整えること、そして自社の環境に過不足がないか、専門家に相談しながら柔軟に取り組んでいくことが望ましいでしょう。
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